卵巣嚢腫
卵巣は卵子や女性ホルモンを作っている場所です。水の入った袋のようなものが卵巣にできた場合に卵巣嚢腫と呼びます。卵巣嚢腫ができると超音波検査で卵巣の一部が丸く腫れているように見えます。卵巣嚢腫にはいろいろなタイプがあり、大きさもピンポン玉大の小さなものからグレープフルーツ大以上のものまでさまざまです。ほとんどの卵巣嚢腫は小さくて症状もありませんが、大きくなって捻れたり、出血したり、破裂したりした場合に下腹部痛が生じることがあります。
また、ほとんどの卵巣嚢腫は良性、つまり癌ではありませんが、ごくまれに悪性の卵巣癌であることがあります。そのため卵巣嚢腫がみつかった場合には、まず悪いものではないかどうか、治療が必要なものであるかどうかなどをチェックする必要があります。
主な種類
機能性嚢腫 一時的に排卵日頃に腫大して自然に消えてなくなるタイプの嚢腫です。誰でも排卵日頃には卵胞という卵子を入れる袋が大きくなり、卵胞が破裂して卵子が飛び出すことによって排卵が起こります。まれに、卵胞が大きくなっても卵子が飛び出ずに排卵が起こらないことがあります。大きくなった卵胞がしばらく残っている状態が機能性嚢腫です。一見しただけでは機能性嚢腫と単純性嚢腫との区別はつきませんが、機能性嚢腫なら普通は次の月経の頃には小さくなります。消失が遅れる場合も1〜3カ月以内には消えてなくなります。
単純性嚢腫 若い女性に非常によく見られる良性の卵巣腫瘍です。丸い袋のように見える腫瘍で、内部には隔壁や腫瘍の固まりが全くなく水だけです。直径5〜6cm位までの小さなもので症状がなければ経過観察をするだけでも構いません。このタイプの嚢腫は手術をせずに経過観察をすることが最も多い腫瘍です。単純性嚢腫のように見えても非常にまれに悪性部分が隠れている場合があるので定期的な検査は必ず必要です
皮様嚢腫 これも良性の腫瘍で癌ではありませんが、内部に油、毛髪、骨、歯などができる腫瘍です。小さいものなら無症状ですが大きくなると下腹部痛や不快感などが生じます。普通は次第に大きくなるので経過観察をしたとしても最終的に手術が必要になることが多い腫瘍です。若い女性に多い腫瘍で、癌ではないのですが左右の卵巣に出来たり、再発することがよくあります。若い女性にはめったにありませんが、皮様嚢腫の一部が癌化するということもあるので手術しない場合でも定期的な検診は必ず必要です。
子宮内膜症性嚢腫 子宮内膜症性嚢腫:子宮内膜症が原因で卵巣にできる嚢腫です。子宮内膜症というのは、子宮の内膜が子宮の内側以外の部分にできてしまう病気です。卵巣に子宮内膜症ができると月経のたびに卵巣の中でも出血が起こります。そのため卵巣の中にドロドロの茶褐色の血液がたまるので別名チョコレート嚢腫(嚢胞)とも呼ばれています。月経は毎月起こるのでチョコレート嚢腫も少しずつ大きくなります。大きくなった嚢腫によって下腹痛、特に性交時の下腹痛や月経時の下腹痛が起こります。
症状
機能性の嚢腫や良性の腫瘍があっても無症状のことが多いので、卵巣嚢腫は産婦人科の受診の際に偶然にみつかることがほとんどです。嚢腫が非常に大きくなった場合には圧迫されておなかが痛くなったり膀胱が押されてトイレが近くなったりすることがありますが、まれです。卵巣嚢腫が原因で性交時におなかが痛くなることもありますが、これもまれです。
卵巣嚢腫の症状として最も注意すべき症状は急激な下腹部痛です。ある程度大きくなった嚢腫が捻れた場合に、突然、激しい下腹部痛や吐き気に襲われます。嚢腫が捻れると卵巣の血流が途絶えるので、短時間の内に卵巣が壊死(腐ること)してしまいます。卵巣腫瘍の捻転が疑われる場合には必ず手術をします。
診断法
卵巣嚢腫は産婦人科の通常検査である内診や超音波検査などによって見つかります。詳しく超音波検査をすることによって、腫瘍の位置、腫瘍の大きさ、腫瘍内部が水だけなのか固まり部分があるのか、腫瘍の中が壁で区切られているのか、腫瘍の中に血液や、毛髪、骨などが入っていそうかどうかなど、かなりのことがわかります。
少しでも悪性腫瘍の疑いがある場合には、血液をとってCA125などいくつかの腫瘍マーカーの値を測定します。ただし、卵巣癌の種類によっては腫瘍マーカーが高くならないことがあります。逆に、卵巣癌でなくてもCA125などが高くなる場合もあります。
内診や超音波検査と血液検査だけでは良性か悪性かの判定が難しい場合、さらにCTやMRI検査を行います。実際には、超音波検査で判定が困難な場合は詳しい検査をしても区別がつかないことが多いので、ある程度の大きさがあって全く良性腫瘍とは言い切れない場合には手術療法を行います。
治療法
卵巣嚢腫が良性と判断される場合は、多くの場合、腹腔鏡を使って腫瘍部分だけを取り去ることができます。全身麻酔をして、おへその下あるいは上に非常に小さな皮膚切開をしておなかの中を観察するための内視鏡カメラを挿入します。1cm以下の切開をさらに数カ所追加して、そこから遠隔操作ができる手術器械を挿入して手術を行います。腹腔鏡を使って手術をした場合には術後のおなかの傷はほとんど目立ちません。
腹腔鏡手術が困難なタイプの卵巣嚢腫、あるいは悪性が疑われる場合は、通常の開腹による手術を行います。
一般的に卵巣嚢腫の手術は婦人科の手術の中でもかなり簡単な部類に入ります。ただし、子宮内膜症性嚢胞に限っては、その後の妊娠に対する影響がありますので、慎重に対応する必要があります。現時点では、子宮内膜症性嚢胞の治療方針は病院によってかなり差があります。出来るだけ将来の妊娠に好影響をもたらすような治療法を選択する必要があります。
卵巣嚢腫と言われた場合に主治医に尋ねておくべきことは?
American Medical Association (AMA)というところが推奨している医師に対する質問事項を列挙します。セカンドオピニオンを得るために他院を受診する場合などの参考にして下さい。
腫瘍の大きさと位置
早急に腫瘍を摘出する必要があるのか、1〜2カ月間経過観察してもよいのか
手術した場合には腫瘍以外にどれくらい卵巣の正常部分を取り去るのか、またその場合は将来の妊娠にどの程度影響するのか
手術後には以下のことを確認して下さい
出した腫瘍の病理診断名
腫瘍が再発する可能性はどの程度あるのか

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