無月経 月経不順 月経困難症と月経前緊張症 月経の量・期間の異常

無月経
18歳になっても初経がなければ医師に相談してください
日本人の月経スタートの平均は12〜13歳です。したがって18歳になっても月経がない場合は異常と考えて、一度専門医に相談したほうがよいでしょう。このように初経すらみられない場合を、「原発性無月経」といいます。一方、初経以後しばらくは順調にあった月経が、なんらかの理由で止まってしまった場合を「続発性無月経」とよんでいます。
原発性無月経の中には、まれですが性器の形態異常、たとえば子宮がなかったり、卵巣が生まれつきなくて、かわりに睾丸組織があったり、膣がないとか、処女膜が完全に閉鎖していて月経血が外へ出ないで中にたまっているなど、さまざまな性器の異常が発見されることもあります。また、外見は正常でも、口の粘膜細胞で染色体の構成を調べてみると、性染色体異常がみつかることもあります(ターナー症候群)。
卵巣―下垂体―視床下部のシステムのどこかに支障があると…
一度は発来した月経が、妊娠でもないのに90日以上みられない場合は、続発性無月経と考えられます。続発性無月経はめずらしいものではなく、よく高校生や大学生が母親に付き添われて来院されます。
妊娠でない無月経の場合は、卵巣の働きが多少くるって排卵がストップしているのか、または卵巣を支配している下垂体からの性腺刺激ホルモン(ゴナドトロピン)の分泌が足りないのか、あるいはその下垂体の働きをコントロールしている、脳の視床下部の故障によってストップしていると考えられます。
脳といえば、精神や感情の中枢が存在しているわけで、失恋の悩みで無月経になることもあります。こどもがほしいほしいと思っているうちに、ほんとうは妊娠ではないのに月経が止まって、つわりが起こり、おまけにおなかに脂肪がついて出っ張ってくるという想像妊娠というものも実際にあります。田舎の両親、家族といっしょの生活から東京の寮生活へ急に移って、環境が変わったために月経が止まってしまうということもあります。飛行場の近くの養鶏場では、鶏がジェット機の騒音で卵を産まなくなったといわれることがありますが、人間に似ていますね。
黄体ホルモンを投与し、出血があるかどうか確かめます
月経がないこと自体は、ほかにこまった症状がなければ、緊急に治療しなければならないものでもありません。しかし、排卵がないということは妊娠できないことを意味しますし、無月経状態が長く続くと子宮の内膜が萎縮してきて、治療しにくくなることもあります。ですから、放置しておかないほうがよいと思います。
治療は、まずは黄体ホルモンを内服または注射します。卵胞ホルモン(エストロゲン)がある程度分泌されており、子宮内膜に作用していれば、黄体ホルモンの影響で内膜はやわらかくなり、黄体ホルモンの血中レベルが低下する時期に剥脱して月経のような出血(消退出血)がみられるはずです。この状態を第1度無月経といっています。
いいかえれば第1度無月経とは、卵胞は発育しているものの、下垂体から分泌されるはずのゴナドトロピンが不十分であるために排卵が起こっていない状態だと推定されます。
黄体ホルモンの投与によっても消退出血がみられない場合は、内膜が卵胞からのホルモンによって増殖していない、つまり卵胞はエストロゲンを分泌するほど発育していないと考えられます。この状態を第2度無月経といいます。消退出血を発来させるためには、黄体ホルモンだけでなく、エストロゲンの投与も必要になります。
みせかけの月経をつくるだけでしたら、黄体ホルモンの使用、あるいはエストロゲンと黄体ホルモンを交互に使用することでよいのですが、妊娠を希望する場合には、排卵を起こすための治療が必要になります(排卵誘発剤を使った治療については286頁でくわしく解説します)。
環境が自然の排卵をスムーズにすることも
無月経の場合には、このようなホルモン剤を使った治療を行いますが、治療と治療の中間には、自然の回復を待つ経過観察も大切です。過度のホルモン療法は、かえって治療をむずかしくすることもあるからです。
環境が自然の排卵をスムーズにした例をひとつあげておきましょう。
母親に付き添われて来院した大学1年生のお嬢さんでしたが、どのような治療をしてもなかなか排卵が起きませんでした。ところが、その後、愛する彼と思いきって結婚生活をスタートしたところ、排卵がスムーズに自然に起こるようになって本来の月経も再開し、無事一児のママになりました。結婚3年目には二児のママとなられてしまい、私もびっくりしました。幸せな結婚生活は、どんな医学的治療にもまさることがあるのだと、感銘を受けました。

月経不順
排卵がスムーズに起こらないと稀発月経に
正常な月経の周期、つまり月経の第1日目から次の月経開始前日までの期間は、ふつう25〜38日で、39日以上と間隔の長いものを「稀発《きはつ》月経」、24日以内と短いものを「頻発《ひんぱつ》月経」といっています。
稀発月経は、排卵が起こっている場合と、起こっていない場合があります。
卵胞の発育にともなってエストロゲンが分泌され、子宮内膜は厚くなっていくのですが、このとき、卵胞を成熟させる性腺刺激ホルモン(ゴナドトロピン)が十分に分泌されないと、卵胞はうまく成長できず、やがてしぼんでしまいます。つまり排卵は起こらないままエストロゲンの濃度が落ち、それとともに子宮内膜もはがれ落ちてしまうのです。
また、通常は月経が始まってから14日くらいで次の排卵が起き、排卵後14日程度で次の月経が始まるのですが、排卵までの期間がのびますと、次の月経が始まるまでの期間も長くなってしまいます。排卵後の卵胞、つまり黄体の寿命は、妊娠しないかぎり最大で14〜16日程度ですから、排卵があるにもかかわらず月経周期が長いということは、排卵するまでにふつうより時間がかかっているのだといえます。これもやはり、ゴナドトロピンの分泌の異常が原因と考えられます。
頻発月経は思春期の女性によくみられます
頻発月経の場合も、排卵が起こっているものと起こっていないものがあります。
排卵のない頻発月経は、まだ月経のシステムが安定していない思春期の女性によくみられる現象です。時期がくれば自然と排卵が順調に起こることが多いので、貧血など、ほかにこまった症状がないかぎり、とくに治療をする必要はありません。 排卵があるにもかかわらず月経周期が短くなる場合は、通常、14日程度は続く黄体の寿命が短くなっているためと考えられます。これを黄体機能不全といっています。
妊娠を希望する場合は排卵誘発剤などを使った治療を
月経周期が長すぎる、あるいは短すぎるという場合、排卵が起こっているのかどうかは、基礎体温表をつけてみれば一目瞭然です。月経と月経の間にまったく高温相がなければ、無排卵周期性のものですし、低温相が長ければ排卵が遅れているための稀発月経、高温相が短ければ黄体機能不全による頻発月経と判断できます。
治療には、排卵をスムーズにするための排卵誘発剤を使用します。しかし、妊娠を希望していないのであれば、すぐに治療する必要はないでしょう。
ただ「頻繁に月経がある」とお悩みの方には、注意していただきたいことがあります。それは、月経による出血と思っているものが、実はがんなどの器質的な病変によって起こっている出血ではないかということです。一度は受診し、検査してもらったほうが安心でしょう。(基礎体温表のパターン)

月経困難症と月経前緊張症
月経のときの不快な症状を月経困難症」といいます
月経のとき下腹痛や腰痛に悩まされるのを月経痛(生理痛)といっていますね。月経痛に悩まされている方は少なくないでしょう。 すでにお子さんを産まれた方は、現在でも出産前に経験していたような月経痛がおありでしょうか。たぶん、お産のあとは、いつのまにか月経痛が軽くなっているのではないでしょうか。また、こどもを産んでから忘れていた月経痛が再発し、お医者さんへ行ったところ、「筋腫がありますよ」と診断され、びっくりなさったという方もおありでしょう。
月経にともなう不快な症状は、たんに下腹痛だけでなく、頭痛や倦怠感など、いろいろな症状がありますので、総括して「月経困難症」とよばれています。これは初経以来ずっと続いている原発性月経困難症と、一度治って二次的に発症してくる続発性の月経困難症とに分けられます。
また、子宮筋腫や子宮内膜症など、なんらかの病的な変化があるために発生する器質性月経困難症と、診察ではなんら異常の発見されない、いわゆる月経痛とよばれる機能性月経困難症とに分けられます。
病的な変化がなくても月経痛が起こるわけ
機能性月経困難症がなぜ起こるのかについては、子宮内膜の中で合成されるプロスタグランディンという物質が、その犯人ではないかと考えられています。プロスタグランディンは分娩誘発の際にも使われるもので、子宮の筋肉を収縮させる作用をもっています。この子宮収縮が、月経痛の原因ではないかと思われるのです。
実際、プロスタグランディンは子宮内膜の中でとくに月経前と月経中に多くなり、月経困難症の患者さんは、月経痛のない人よりも濃度が高くなっているという報告もあります。そのため、市販の鎮痛剤では効かないような人には、プロスタグランディンの合成を阻害する薬を処方することもあります。【月経にともなう症状のいろいろ】
原発性、機能性の月経困難症には「お産」がいちばんの治療法です
未婚の女性が悩まされる月経困難症は、たいてい原発性、機能性の月経困難症で、中年の女性の場合は、続発性、器質性の月経困難症です。よく若い女性が月経困難症で来院されますが、私はこう申し上げることにしています。「いちばんよい治療法は、早く結婚されて早くお産をすませることです」と。実際、機能性の月経困難症は、お産をすませれば、子宮のかたく閉ざされた頸管が赤ちゃんの通過によって開かれますので、産後は月経血の排出もスムーズで、忘れたように自然に、いつのまにか治ってしまうことも多いのです。
「月経前緊張症」がひどい場合には経口避妊薬が有効です
このほか、月経前になると精神的にいらいらしたり、頭痛や、むくみ、お乳がはったような感じなど、微細な体の失調症状が毎月きまって発症するものを、「月経前緊張症」あるいは「月経前症候群(PMS=premenstrual syndrome)」といいます。これは心理的なものもありますが、黄体ホルモンの分泌も重要な原因と考えられ、あまり強いときには経口避妊薬(ピル)を飲んで排卵を抑制すると治ります。
おもしろいことに、排卵の起きていない無排卵周期の場合には、月経痛が軽いか、あるいはまったくありません。そのため、月経困難症の治療にもこの原理が応用されることがあります。経口避妊薬を飲んで排卵を抑制すると、月経量が少なくなるとともに、それまで毎月、月経になると救急車でかつぎこまれていたような月経困難症の人でもピタリと治ってしまいます。
経口避妊薬で効果があるということからみると、月経前緊張症も似通った一面をもっていることになり、私ども産婦人科医にとっては興味深いことです。【月経にともなう症状のいろいろ】

月経の量・期間の異常
レバーのようなかたまりがあったら…
月経による出血(月経血)がきわめて多い場合を、過多月経とよんでいます。どれくらいなら多すぎるのか、実際に出血量をはかって確かめるのはむずかしいのですが、レバーのようなかたまりが月経血にみられれば過多月経のうたがいがあります。さらに貧血もあれば、過多月経と考えてよいでしょう。
過多月経を起こす原因としては、子宮筋腫や子宮腺筋症など、子宮の病気があります。子宮筋腫のなかでも粘膜下筋腫は過多月経を起こす代表的な病気です。この場合、月経期間が長く(8日以上)続く過長月経をともなうことがよくあります。
しかし、器質的な病変がないにもかかわらず出血量が多かったり、月経期間が長いこともあります。これはおもに、ホルモンのバランスがくずれているために起こるものです。
月経血が極端に少なくなることもあります
月経血が極端に少なく、持続期間も2日ほどしかないという場合もあります。子宮の発育が悪かったり、人工妊娠中絶や帝王切開などの手術を繰り返した結果、子宮内膜の前壁と後壁が癒着してしまい、子宮内膜の表面積が少なくなっていることなどが原因になります。
このような原因がなくても、排卵が起こっていない月経の場合、出血量がわずかになることがあります。

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